平成26年6月8日(日)午後2時
会場:無罣庵
出席者:24名
テーマ:“コミックソングの歴史 “添田唖蝉坊 生誕の地に因んで” 豊年斎梅坊主からトニー谷まで”
講師:村上信至
当日の例会には、岡田則夫氏がご出席くださった。氏は著名な大衆芸能研究家で、著作も沢山ある。
現在レコード・コレクター誌に連載記事を長年にわたり掲載中である。
また、当愛好会の創設会員でもあり、今回のテーマについても、いろいろとご相談させていただき、沢山のご示唆を下さった。
湘南SPレコード愛好会としても心強いかぎりである。
講演会に先立ち、ご挨拶を頂いた。
再生装置について
今回は、初めての試みとして、録音と同時代の装置で電気再生に取り組んだ。1930年代の鉄針用ピックアップを使用したHMV社製のプレーヤーと、同時代のドイツ製電磁型のスピーカーを使用して、当時の電気再生音を再現している。装置は喜代門守氏にご協力をお願いし、今回実現する事が出来た。
蓄音機でもなく現代のカートリッジでもなく、音は明解でありながら耳に心地よい。今回は会員の皆さんに大変好評であった。今後も電気再生の可能性を追求して行きたい。
コミックソングとは
滑稽な持ち味の音楽のこと、歌や演奏で物まね、ギャグ、ナンセンス、風刺、駄洒落、エロ、パロディーと多岐に亘る。
日本のコミックソングの歴史
古くは江戸時代の大道芸である、願人坊主の「阿保陀羅経」まで遡ることができる。
明治時代には「かっぽれ」の名人、豊年斎梅坊主が時節に合った「阿保陀羅経」を演じ、これが流行する。
これはガイスバーグによる1903年の日本初録音、いわゆる出張録音のG&T盤で聴くことができる。
また、自由民権運動の中から壮士節が生まれる。これは運動が政府から弾圧され集会の自由を奪われた結果、
已む負えず街頭で歌うことでその主張を訴えることから始まった。
壮士演歌という。演歌とは演説歌のことで、最近の演歌とは別物である。
明治後期には、添田唖蝉坊は民衆が親しみ易い音楽へと高めた。
演歌の誕生である. 大正に入ると、演歌師に学生のアルバイトが加わる、これを書生節と言い若い女性に人気となる。
これがアイドル化して、演歌師と並行して昭和初期まで続く。これらは、アーコスティック録音盤で聴くことが出来る。
昭和になると、蓄音機やラジオが普及する。これにより演歌師の時代は終わり、
作曲家や作詞家が作り出す曲を、スター歌手を使い最新の電気録音で売り出すレコード産業中心の時代になる。
この頃から開戦までの所謂「昭和モダン」の時代は百花繚乱であり、一つのピークを迎えるのである。
終戦後、今迄とは異なった新たな才能や感覚を持った人達が登場する。
そして、新たなパワーで日本復興に向けて力強く歩み出すのである。
※曲の解説は会員のこちらからご覧ください。
曲目
明治
1. 阿保陀羅経:「出鱈目」 (唄)豊年斎梅坊主 明治43年録音 ニッポノホン2352 | ||
2.まっくろけ節:添田唖蝉坊(1872〜1944) (唄)市助 大正2年録音 オリエントA733 |
大正
3.スットントン節 添田智道(1902〜1980):作詞・作曲 (唄)砂川捨丸 大正11年録音 オリエント2768 | ||
4. 書生節「ノンキナトウサン」 添田唖蝉坊作曲/石田一松作 (唄)石田一松 大正13年録音 ヒコーキ16197 |
昭和
5. お伽歌劇「茶目子の一日」 佐々紅華(1,886〜1961)作詞/作曲 (唄)平井英子/高井ルビー/二村貞一 演奏:日本ビクター管弦楽団 昭和4年録音 ビクター50681 | ||
6. 酋長の娘 (唄)富田屋喜久治 外囃子連中 昭和5年録音 ポリドール337 | ||
7. 洒落男「ゲイ・キャバレロ」 (唄)二村定一 演奏:アーネスト・カアイ・ジャズバンド 昭和5年録音 ビクター51013 | ||
8. アルコール行進曲 (唄)バートン・クレーン 演奏:コロンビア・ジャズ・バンド 昭和6年録音 コロンビア26701 | ||
9. エノケンの月光價千金 (唄)榎本健一 演奏:ポリドール・リズム・ボーイズ 日本ポリドール・スイング・オーケストラ 昭和11年録音 ポリドール2374 | ||
10. もしも月給が上がったら (唄)林伊佐雄/新橋みどり 昭和12年録音 キング10136 | ||
11. 四人の突撃兵 (唄)あきれた・ぼういず 昭和13年録音 ビクター54430 | ||
12. 浪曲ダイナ (唄)川田義雄 昭和14年録音 ビクター54598 | ||
13. 笑うリズム (唄)なんじゃら・ほわーず 昭和15年録音 タイヘイ17092 | ||
14. 僕は特急の機関手で−東海道・九州編− 三木鶏郎作 (唄)轟夕起子/波岡惣一郎/服部富子ほか 昭和25年録音 ビクター40595 | ||
15. 田舎のバスで (唄)中村メイコ 昭和29年録音 ビクターV41347 | ||
16. そろばんチャチャチャ (唄)トニー谷 録音年代不明 ビクター41495 |
あとがき
こうして、コミックソングのSPレコードを明治から昭和20年代まで振り返ってみると、その時代感覚の変化に驚かされる。
改めて流行り歌は、歴史という縦線に、文化という横線で、布を織るように作られてきたのだなと感じる。
そしてそこには、市井に生きる庶民の感情が、様々な色で染められている。
−完−