第40回例会「“同一音源 異媒体比較試聽”―ポピュラー編―」

令和元年11月10日(日)午後2時
会場:無罣庵

テーマ:“同一音源 異媒体比較試聽”―ポピュラー編―

講師:吉島正憲 電気再生担当:喜代門 守
1) LP・CDをも対象にした当企画が実施に至った理由と経緯について

当愛好会は会名に「SP」と明記してある通りSP盤を楽しむ会ですが、「SPレコードは好きですが、自分ではあまり保有していない」或いは「元音源はSP盤ですが、自分の保有はLPもしくはCDです」 という会員に、お持ちのLP&CDを使ってDJ担当をして頂き、会の幅広い活動に繋げていきたい、という主旨から企画されました。即ち月例回DJ担当者の門戸を、これまで以上に幅広くお誘いするためです。

2) その背景

歴史的遺産でもあるSPレコードは、当然の事ながら’60年代以降は例外を除いてほぼ製造されていません。専門店の他、古物店や古物市を丹念に探していけば今からでもそれなりの音楽コレクションを形成し楽しんでいくことは可能ですが、ハードルが高いのも事実です。

SPレコードの1,000枚のコレクションと言えば相当立派なものだと個人的には思いますが、ポピュラーLPであれば約200枚程度(2,000曲)の収録枚数に相当します。さすがにこれでは充実したDJを何回も担当するのは余程系統だった収集をした1,000枚でない限り難しいのが実状だと、個人的には思っています。しかしながら諸処の理由でSP盤ではなくLPやCD媒体でSP時代の音楽を楽しんでおられる会員は相当数いらっしゃる様子です。

我々の会の趣旨は、「SP盤そのものを楽しむ〜伝統遺産を伝承する」(蓄音機等ハードウェア含む)と共に 「SP盤“時代”の音楽を楽しむ」 と考えています。だからLP盤による復刻再生であってもSP時代の音楽は楽しめる、 こういった背景から同一音源 異媒体での比較試聴の企画が昨秋役員会で提案されました。

3) 本日のジャンルをポピュラーに限定した理由について
  1. 媒体の違いによる音質・音触の違いがクラシックより馴染みのある分聴いて判りやすいこと。ボーカルをメインにしインストルメンタルジャズは最小限にしました。
  2. クラシックの場合、録音日時等音源の同一性を担保するのが、難しかったこと
  3. 私の保有するLP・SP・CD異媒体での同一音源録音が、ポピュラーに偏っていること

以上が理由です。本日の曲の選定には全体を通した統一テーマはありません。

「同一音源異媒体比較試聴」のみであることを了承下さい。その中で可能な限り録音と音楽の良好なものを選びました。

いつも明記しているパーソネル等は、歌謡曲については省略させて頂きました。判る範囲で録音月日は記載しましたが不明のものも多数あります。よって可能な限り同一音源である事を精査しましたが厳密な意味で TakeNumber も含めて「同一音源である」事を、担当者として担保出来ません。状況等御賢察のうえご了承下さい。又特に注記ないものは基本的にSP盤とLP盤の演奏とし、一部にCD盤も比較試聴としています。

<曲目>
  1. Westend Blues ‘28/6/28
  2. Tight Like This ‘28/12/12
    Louis Armstrong(tp) Earl Hines(p) Fred Robinson(tb) Jimmy Strong(cl) Mancy Cara (banj) Zutty Singleton (ds)
  3. St. Louis Blues ‘40/10/15
    Billie Holiday(vo) Bill Coleman(tp) Benny Morton(tb) Benny Carter(c1) George Auld(ts) Sonny White(p) Ulysses Livingston (g) Wilson Meyers (b) Yank Porter (ds)※CD再生含みます
  4. Donna Lee ‘47/5/8
    Bud Powell(p) Tommy Potter (b) Charley Parker (as) Max Roach (ds) Miles Davis(tp) 
  5. Un Poco Loco ‘51/5/1
    Bud Powell (p) Curly Russell(b) Max Roach (ds)
  6. She’s Funny That Way ‘44
    Frank Sinatra (vo)
  7. Alexander’s Ragtime Band ‘47/3/25
    Bing Crosby、Al Jonson (vo)
  8. 越後獅子の唄 ‘50
  9. お祭りマンボ ‘52
    美空ひばり※CD再生含みます
  10. 有楽町で逢いましょう ‘57/11 発売
    フランク永井
  11. 五木の子守唄 ‘58/11 発売
    江利チエミ
  12. 南国土佐を後にして ‘59/4 発売
    ペギー葉山

4) おしまいに

今回の主旨と目的は冒頭に記した通りです。ぜひこれを機会に侵入幅広くDJの担当を楽しんで頂けたら…と考えています。その一方で私は今回のプログラム作成の為に、改めて上記演目の数倍の比較試聴を行いましたが、その折にSP盤好きにしてジャズファンでありオーディオマニアでもある私は幾つかの事を再確認しました。その折の雑感の幾つかを述べて本日のDJの締めとしたいと思います。

まず第一に「音楽に音に何を望むのかによって“良い音”は違ってくる」というごく当たり前の事です。 本日お聴き頂いた様に録音媒体によって音質・音色は大きく異なります。私自身は‘40年代以前の ジャズ=今日であればルイやパーカーを聴くときはゴリッとした或いはザラッとしたリアリティを求めています。そうするとどの媒体が好ましいか…。これは“言わずもがな”かもしれません。

本日は機会がありませんでしたが蓄音機再生の持つリアルさは言うまでもありません。 その一方本日は私のソフトの事情から充分に聴いて頂けませんでしたが、良く出来たモノラル装置でボーカルLPを聴く時の実在感は他の媒体での再生を凌駕しているように感じます。はたまた少々編成の大きなものを解像度良く聴きたい場合は上限のクォリティを持つLPシステムか良く出来たCDが向いているようです。このように「どの媒体が良い」と十把一絡げで言うことは不可能であると言うことです。この当たり前の事を再確認しました。

第二に、媒体の違い以上に盤への「カッティングによって音質は大きく違ってくる」ということです。これは特にLPによって大きく感じました。本日はLPの音質の違いまで聴いて頂く時間的余裕はありませんでしたが、「新カッティング重量盤」等々巷間宣伝されている宣伝文句通りに“月とスッポン”程度の違いのあるものも散見されました。ただこれらは私の確認可能な少数のサンプルでのことですので一般論レベルまで確言するものではありません。

本日の企画を契機に多数の会員の皆様の中からSP音源に基づくLPやCDを使ったDJ担当を楽しんで戴く方が多数出て来て頂けるなら大歓迎であります。又音源の対象が大きく広がる事によって例会の音楽的興趣も大きく拡がっていくことと思います。