平成26年2月23日(日)午後2時
会場:無罣庵
テーマ:“縦振動の魅力 PART3「エジソンとパテとコロムビアの聴き比べ」 ”
3社のシリンダーレコードと蓄音機を聴き比べて鑑賞します。
担当:金子家祥
今回はエジソンシリンダーレコードのコンサートを初めて行いました。
当日、使用した蓄音機は6台使用してのものでした。コンサートと言っても100年を越えた音源なので音の悪さ、雑音の中での歌声、それは当会でもたびたび聴くSPレコードとは比べものにならないものでして開会前に一言、お断りをしていた次第でした。当然蓄音機も19世紀末〜20世紀初頭の年代物なのでしたが皆、機械にはかなりの興味が有り写真を撮ったり手で触ったりとなかなかの好評でした。
EDIOSN Home
さて最初はエジソンのホームという1898年製の機械でスーザの行進曲「自由の鐘」を再生しました。19世紀末の機械でしたが鮮やかな音に皆、関心していました。この当時、エジソンのシリンダーにはこのようなマーチの曲がかなりあり、当時の録音技術ではこのジャンルの曲目が一番合っているような気がしました。
EDIOSN Signet horn
今回は2分、4分の2種類のシリンダーを持参しましたが2台目のエジソン・スタンダードD型、シグネットホーンの機械調子が悪くなりこの機械は2分・4分のアタッチメントが付いた蓄音機でしたが切替のギヤのかみ合わせがいまひとつでした。
EDIOSN Fireside
3台目はファイヤサイドのレッドマルーンホーンと言うこれも特別のホーン装着の物です。
曲目は「ソング・バイ・ザ・シリバー・ムーン」古いジャズのようですが当時すでにモダンな曲があったのですね。
EDIOSN Opera
4台目は同じくエジソンのオペラです。この蓄音機はこのクラスの最高級モデルです。おそらく日本に何台あるか?この蓄音機のホーンはウッドホーンです。音が柔らかい割に大きな音が出ます。当日はこの蓄音機をメインに使用しました。掛けたシリンダーは4分専用機なので
ショパン・ノクターン
リキンゴレッド
ミニヨン・ポロネーズ
ワルキュレの騎行
マダムバタフライ・ファンタジア
運命の力
ドルドラ・思い出
この内、運命の力とキャスリンパーローのショパンは特に好評でした。2分とちがい4分シリンダーは音も良く声楽曲は特に好評でした。
Columbia Model-Q
5台目はコロムビア社モデルQ(1897年頃)
ゼンマイも小さく追い巻きができない為ギリギリ2分用シリンダ-1本しか、かけられないので、曲の最後には回転が落ちてしまいます。
PATHE
6台目はフランス・パテ社(1905年頃)…
パテ社の物は日本では数の少ない希少品です。実物も聴ける機会も少ないでしょう。パテ社には直経3.5インチ サロン、5インチコンサートの大口径のシリンダーがあり今回は3.5インチサロンシリンダーで再生しましたが、参考品としての再生です。音質は良くありません。
録音当時の1920世紀頃の歌唱方や、エジソン製シリンダー用のジュークボックス(ポリフォン)の話など普段余り聞く事のない約2時間の例会となりました。最後に例会の開始前に音質の事についての説明で糸電話の例を挙げシリンダーの音質について述べましたが少々不安が有りました。おそらく日本では余りないコンサ-トでしたしそれを聴いた反応がどうか?… しかし、予想以上の好評で安堵しました。
当日のレコードリスト *順不同
<4 Minute Edison Cylindre>
Martha None So Rare Althouse
Andante.E.Flat Major ? Rigolette
Favorite
Sovenir (Dordia)
Nocturne E. flat Kathleen Parlow
Mignon
Serenade
Ride of The Valkri. s?
Madame Butterfly Fantasia
La forza Del Destina
Hangarian Rhapsody
<2 Minute Edison Cylindre>
Song by the light of the silvery moon.
Banjo Rag
Last Rose of Summer
Guillaume Tell
Violin & Flute Dream Mimente
Song of Mermaide
White Record / The Hory City
<Columbia Citaten couplet>
Liberty Bell March
<Pathe>
La Favorite
Hu Fille Du Regiment
00609 ?
<Pathe 3.5inch Cylinder>
Chanson Marty Vaduel Romance
シリンダーの曲目、演奏者についてはシリンダーとジャケット(シリンダーの入る円筒形の箱)との相違等、演奏者曲目の判読不可の為判明出来るもののみ記す事としました。
エジソン蓄音機考
金子家祥
かつて、バブル期には大概のアンティックショップには一台は置いてあったエジソン蝋管蓄音機ですが、当時の私の給料では手の届かぬ高根の花でした。しかし、その後バブルもはじけ、私もオークションなどでも安価に手に入れることが出来るようになりました。蒐集するには良い時代になったのですが……。
しかし、エジソンの蝋管蓄音機は大変バラエティに富んでいて、小型の物からランク別に列挙すると、前期モデルが、ジェム(G)、ファイヤサイド(F)、スタンダード(S)、ホーム(H)、そして、後期のモデルになるとトライアンフ(フロア型)、そして最高機種のオペラ(Opera)と機種も豊富です。この内の“オペラ”は高級機の為か生産台数が少なかったようで、現在では入手が難しい蓄音機の一つです。先日も米国のオークションで数千ドルの価格が付いておりました。
さて、機種別のアルファベットは意味があります。それは後程述べることにします。
エジソンの蓄音機は、全機種にわたりかなり頑丈かつ精巧に作られていて、壊れ難くゼンマイ切れの機械を見たことがありません。その分、修理するのも難しいですが…。
蝋管(レコード)の録音時間は、前期が2分、後期が4分の2種類があります。但し、ホーム(H)から後の物は2分、4分両用の機種があります。蝋管を再生する“リプロデューサー”(サウンドボックス)は2分がサファイア針、4分がダイヤモンド針と半永久的なので交換する必要がありません。(但し、2分の再生と4分の再生にはリプロデュサーの交換を要します。)
ところで、先程は機種の豊富さを述べましたが、前期の物と後期の物の見分け方があります。初期の1898年製のホーム(H)のカマボコ型の上蓋に“エジソン・ホーム”と英字の記載があります。後期のものは“エジソン”の文字のみが書かれています。
しかし、正確に見分けるのは製造番号によるのが一番です。例えば、S123456の番号は、頭文字の“S”が先程述べた、スタンダードの(S)で機種を表します。後期モデルには例外もありますが、これでおおよその機種は判別できます。この番号はどの機種にも取り付けてあるプレートに刻印されています。しかし、後期の物は例外もあるようで、これが判別を難くしています。
次に、蝋管(レコード)についてご説明いたします。これは“シリンダー”と言い、2分と4分の2種類がある事は先に述べました。
2分のシリンダーは、蜜蝋と樹脂の混合物で、非常に柔らかな素材で出来ており、うっかり落としたりすると木端微塵になってしまいます。私も不注意で何度か粉々にしたことがあります。
4分のシリンダーは“エジソンアンベロール”と言います。生産の初期は2分用と同じ材質でしたが音質が良くなく、これは後に改良され“ブルーアンベロール”というシリンダーが発売されました。ブルーあるいはパープル色をして、石膏の上にセルロイドを円筒に巻いた形状のシリンダーで、格段に音質が向上しました。ただし、経年変化で円筒に歪みが生じるのが欠点で、これを修正するには、すりこぎ状の棒にヤスリを巻いた道具を用いて変形した部分を削ります。
シリンダーの回転数は次のようになっています。
4分 160rpm
2分 120rpm
速記用 144rpm
さて、肝心の音源なのですが、エジソンは蓄音機を速記用の録音機として発明し、音楽を聴く手段とは考えていなかったようです。彼自身が音楽に関心が無かったようで、残された音源には、音楽的に優れた物が少ないことは否めません。マニアのコレクションアイテムで終わることも多々あります。それでも中には声楽物や器楽物、オーケストラ等、名演奏家によるかなり貴重な録音が残されており、これらは米国のオークションでも数百ドルの高額で取引されているようです。
エジソンの蓄音機は、オーディオの原点として通り過ぎる事の出来ない重要なジャンルではないでしょうか。
完
【参考】第2回例会「パテ縦振動の魅力」
【参考】第8回例会「パテ縦振動の魅力 PART2」
【参考】第33回例会「エジソン・シリンダー 〜ダイヤモンド・ディスク〜」